大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和28年(ネ)77号 判決

控訴人(原告) 東たみゑ

被控訴人(被告) 和歌山県知事

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人に対し昭和二四年七月一三日付をもつて新宮市新宮五七二番地宅地二六坪四合六勺についてなした新宮市特別都市計画区画整理に基く換地予定地指定処分及び同月一五日付をもつて右土地のうちから二二坪七合六勺を控除した東側の幅三尺の土地についてなした清水貞一に対する使用開始の通知処分が無効であることを確認する。訴訟費用は被控訴人の負担とする。」という判決を求め、被控訴代理人は、主文と同じ判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、控訴代理人において、「被控訴人は、新宮市特別都市計画事業に基く土地区画整理として、昭和二四年七月一三日付をもつて、控訴人所有の新宮市新宮五七二番地宅地二六坪四合六勺について、換地予定地を右宅地のうち東側の幅三尺の土地を減じた残地二二坪七合六勺と指定し、且、同月一五日付をもつて、右幅三尺の土地について、清水貞一に対し使用開始の通知をなしたので、控訴人は、原審において、右換地予定地の指定処分及び使用開始の通知処分が違法であることを理由にその取消を訴求したのであるが、当審においては、被控訴人のなした右各処分は、控訴人において原審で主張した理由によつて違法であるから、当然無効のものであると主張する。よつて、当審において請求及び請求原因を変更して右各処分の無効確認を求める。」と述べ、被控訴代理人において、「控訴人主張の新宮市新宮五七二番地の宅地二六坪四合六勺が元控訴人の所有であつたこと、被控訴人が、新宮市特別都市計画事業に基く土地区画整理として、右宅地について、控訴人主張の日時に、その主張のような換地予定地指定及び使用開始の通知の各処分をしたことは認めるが、(一)、新宮市は今次の戦争に際し昭和二〇年の一月九日、六月五日、七月一七日及び同月二四日の四回に亘り米軍の爆撃等により戦災を受け、昭和二一年一〇月九日、内閣告示三〇号をもつて、主務大臣より特別都市計画法一条三項に基く戦争で災害を受けた市として指定されたものであつて、従つて、右指定及び右指定を前提とする本件処分には控訴人主張のような違法はなく、又、(二)、新宮市は特別都市計画法施行令一三条一項にいわゆる丙地区に相当し、従つて同条項に基き過小宅地を定める基準となる宅地々積の規模が、原則としては、一〇〇平方米を下ることができないことは、控訴人主張のとおりであるが、右施行令一三条一項但書には「都道府県知事が公益上やむを得ないと認める宅地についてはこの限りではない」という例外規定が設けられているところ、元来新宮市は地区全般に宅地規模は小さく、地区内民有地一、一〇五筆のうち三〇坪から三九坪までのもの一四一筆に対し二九坪以下の過小宅地は五五三筆を数え、しかも右三〇坪以上の宅地も三〇坪に近いため、その地積を減じて過小宅地に地積を増すときは逆に過小宅地となるものが多くなることや、終戦に伴う外地からの復員者、引揚者、疎開先からの帰宅者及び紀南における産業、経済、交通等の中心都市である同市に集中される人口等を勘案し、住宅敷地の確保による民生の安定を考慮し、被控訴知事は、前記但書の規定によつて個々に検討を加え、金銭清算のできるものはこの方法によつたが、控訴人は換地割込当時新宮市に居住していなかつたため一応疎開者と推定し、金銭清算も可能であるが控訴人が疎開先から帰つた際住宅敷地がなくて困却する場合のことを考え、民生安定の観点から本件換地予定地の指定をなしたものであり、しかも本件地区民有地の換地による平均減歩率は一割五分二厘に達しているのに、本件宅地の減歩率は一割四分に過ぎないから、右指定処分はなんら違法ではない。」と述べたほか、原判決の事実摘示と同じであるから、それをここに引用する。

(証拠省略)

理由

先ず被控訴人の本案前の抗弁について案ずるに、控訴人は原審においては本件行政処分が違法であることを理由に右行政処分の取消を訴求したのであるが、当審においては請求及び請求原因を変更して本件行政処分が違法であることを理由として右処分が当然無効のものであると主張し、その無効確認を訴求するものであるところ、かかる訴訟については訴願前置の規定がなく又出訴期間についての制限もないものと解するから、被控訴人の右抗弁は理由がない。

よつて、以下本案について判断することとする。

被控訴人が、新宮市特別都市計画事業に基く土地区画整理として、控訴人所有の新宮市新宮五七二番地宅地二六坪四合六勺について、控訴人主張の日時に、その主張のような換地予定地指定及び使用開始の通知の各処分をしたことは当事者間に争がない。

控訴人は、一、新宮市は主務大臣により特別都市計画区域として指定されているが、特別都市計画法一条によると、特別都市計画区域は戦争で災害を受けた市町村にかぎり主務大臣がこれを指定することができるところ、新宮市は戦争でなんらの災害を受けていないのであるから、同市に対する右指定は同条に違反する無効のものであり、従つて該指定を前提とする本件各処分は違法であると主張するけれども、公文書であるから反証のないかぎり真正に成立したものと認める乙一号証の一及び四、当審証人志津野富雄の証言によると、新宮市は戦争で災害を受けた市であることが明らかであるから、主務大臣が特別都市計画法一条三項に則つて同市を同条二項の特別都市計画区域として指定したことについてなんら違法がないから、右指定が違法であることを前提とする控訴人の右主張は採るに足りない。

次に控訴人は、二、本件換地予定地指定処分によると、控訴人の換地予定地の地積は従前の地積に比べて減少しているが、特別都市計画法施行令一三条によると、過小宅地のため大なる地積の宅地に対し地積を減少して換地を交付する場合には大なる地積の宅地を甲地区において二五〇平方米、乙地区において一五〇平方米、丙地区において一〇〇平方米以下に減少することができないことになつており、新宮市は丙地区に指定されているから、一〇〇平方米(即ち一、〇八九平方尺)を下ることができない筋合であり、本件控訴人所有宅地の地積は二六坪四合六勺(即ち九六二平方尺余)であるから、控訴人所有宅地こそ過小宅地というべきであるのに、これを大なる地積を有する宅地として隣接地のためこれを割譲し、更にその地積を狭小ならしめて換地予定地を指定し使用開始を通知することは違法であると主張し、なるほど特別都市計画法施行令一三条一項に控訴人主張のような規定が設けられており又新宮市がいわゆる丙地区に相当することは控訴人の主張のとおりであるけれども、同項には但書が設けられてあつて、右但書によると、「但し都道府県知事が公益上已むを得ないと認めた宅地又は借地については、この限りでない。」と規定しているところ、当審証人志津野富雄の証言に成立に争のない甲三、四号証の各一、二を参酌して総合すると、新宮市は宅地の区分が非常に小さいため、特別都市計画法施行令一三条一項の原則規定をそのまま適用するときは大部分の宅地が金銭清算を受けねばならぬこととなり、かくては多数の宅地所有者が宅地を失つて困却する結果となるため、被控訴知事において、同条項但書の規定により、公益上已むを得ないものと認めて、新宮市に対しては特に二〇坪を基準として換地処分を行うことに定め、右基準に基いて本件換地予定地指定処分並びに使用開始の通知処分をなしたことを認めることができ、しかも右認定の事情のもとにおいては被控訴知事が公益上已むを得ないものと認めて但書の規定を適用したことについても必ずしも違法があるとは思えないから、控訴人の右主張も採用できない。

そうすると、本件各処分に控訴人主張のような違法があることを前提とする控訴人の本訴請求の失当であることはいうまでもないところであり、控訴人の請求を棄却した原判決は結局において相当であることに帰着するから、民事訴訟法三八四条、九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決をする。

(裁判官 竹中義郎 相賀照之 入江菊之助)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例